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text by Reiri
 


 そこは大きな白亜の建物だった。
 私が西の国に着いてすぐに向かったのは王立図書館だった。
 この王立図書館は歴史も古く、また蔵書量もほかの国の図書館や国内のほかの図書館と比べ物にならない。
 やっと憧れの地にやってきたのだ、と私の胸は高鳴った。

 建物にふさわしい重厚な扉をくぐると、嗅ぎなれたものとは少し違う本の匂いとさざなみのような人々のざわめきが私を包んだ。
 澄ました図書館員の座る受付台の前を通り過ぎると、私の身長の二倍以上はあろうかという書架がずらっと立ち並んでいる。その奥には本を読んだり書きものをできる机が並んでいる。この机も、私の生まれ育った東の国では地面に座って使う文机が主流だが、こちらにあるものは椅子に座って使う机で、些細なことだが「西の国にやってきたんだ」という実感が湧いた。
 ふと視線を手前の書架にやると、そこは子供向けの絵本や童話がたくさん並んでいた。何気なくその中の一冊を引き抜くと、そこには美しい金髪の女性と深い色の髪の男性が柔らかい筆致で描かれている。
 そう、この創世神話の物語こそが私の心を惹いて止まない、そして私がこの西の国に興味を持ち、訪れてみたいと熱望するに至ったきっかけである。

 手にとった一冊のページをぱらりとめくった。

  むかし むかし
  ふたりの神様が この世界をおつくりになられました

  男神様は太陽を
  女神様は月と星を

  昼と 夜を
  それぞれを明るく照らす
  光をおつくりになられたのです

  男神様はあらゆる生き物をおつくりになり
  最後に人間をおつくりになりました

  女神様は大地を五つにわけ
  人間の王をお選びになりました

  人は家を建て 法をつくり
  豊かに暮らしました

  そうして ふたりの神様は
  長い間 この世界を見守ってきたのです

  ところが
  人間は愚かでした

  豊かな暮らしに慣れてしまった人の子は
  神様の存在を忘れ
  国をめぐって争うようになりました

  二人の神様はたいそう悲しみました

  そして

  ある時 男神様は地上へ降りると
  その力で人々の争いを鎮めました

  人々は神様の存在を思い出し
  再び平和に暮らすようになりました

  そうして 女神様が笑顔を取り戻すと
  男神様は言いました

  「私が地上に降りて
   これからもこの世界を見守ろう
   人の子が 二度と
   過ちをおこさないように」

  「私は地上から
   君は天上から
   共に世界を見守ろう」

  「いつか地上の私を見つけておくれ
   私も君を思って毎夜月を見上げるから」

  「それまで私は 
   千年の孤独にも耐え抜こう」

  こうして
  男神様は地上から
  女神様は天上から

  今日も私たちを
  見守ってくださっているのです


 一気に読むと、自然とふぅとため息が漏れた。
 すると、誰もいないと思っていたとなりから、思わず漏れたといったような笑い声が聞こえて、私は慌てて隣を振り向いた。
 その清らかな鈴の音のような笑い声の主は若い女性だった。
「ふふっ、ごめんなさい、笑ったりして。でもあなたがあんまり熱心にその本を読んでいらっしゃるものだから。ちょっと知り合いの子を思い出してしまって」
 女性のそのセリフになんだかとても小さな子どもを思い浮かべてしまい、苦笑してしまった。
「ええ、この創世の物語が大好きなんです」
「あら、そうでしたのね。ところで東の国の方とお見受けいたしますが、ご旅行か何かですか?」
「いいえ、この創世神話を研究するために王立大学に留学することになりまして」
 まぁ!そうでしたの!という少し驚いたような彼女の声を聞きながら、そういえばまだ着替えもしていなかったなと自分の服装を見下ろした。
「それは失礼いたしました。ようこそ、西の国へ。文化の違いに戸惑われることもあるでしょうが、この国の民は優しく、心豊かな者ばかりですからどうか安心なさってくださいね」
 彼女は優雅な一礼をすると、優しい微笑みを浮かべそう言った。また、彼女が動くと花の芳香が漂うようだった。
 彼女が、では、私はこれで失礼いたしますね、と去っていってからも、私はまるで動くことができなくなってしまったようにそこに立ち尽くしていた。
 その後ろ姿を見送りながら、ふと西の国を加護しているという女神のことを思い出した。
 月色の髪の花を愛する女神――それはきっと彼女のような姿をしているに違いない。


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